IoT、データ駆動型ビジネスの発展とともに、ITを駆使したスマートシティへの注目が集まっています。都市を覆う課題解決に対する市民の期待、ユビキタスネットワークの発展、反対に大都市への人口集中、地方都市の少子高齢化、自治体リソースの逼迫などが相まって、ITや通信技術を駆使したインテリジェントなソリューションに対する投資を行なうことが期待されています。調査会社Frost & Sullivanの市場予測では、スマートシティの世界市場規模は2020年までには1.5兆ドル(日本円で約157兆円)に達すると見積もられています。
今年始めに行われた米国自治体向けアンケートでは、回答があった54都市で335のスマートシティプロジェクトが進行中で、2017年ではさらに459プロジェクトが計画されているということです。米国でのスマートシティの試みの特徴は、新たなIT技術を駆使した既存インフラの効率化、官民協業体制、NPOを中心とした各種民間団体の支援体制、サスティナブルなビジネスモデル作り、スタートアップとのWin-Winな関係作り、オープン化にあります。
本ブログでは、米国を中心として世界で起きているスマートシティの最新の動向について、ビジネスモデル、ファイナンスモデル、サービス、技術について紹介していきます。
第1回はスマートシティのファイナンスです。スマートシティでの最大の課題の一つは、如何にしてサスティナブルなファイナンシャルプランを作るかです。米国の多くの都市では 、プロジェクトを収益化するための新たなファイナンスプラン を模索しています。市場調査会社Frost & Sullivanは、Smart Cities Funding Modelsというレポートを最近発行しました。その中で次のような考察をしています。「初期投資の大きなタスクを、民間を含めたエコシステムの中で実行している都市は、自治体内部の収益だけでなく、エコシステム全体の収益向上を追求しており、この中で銀行や民間企業との結びつきを強くしている。」民間企業、銀行を巻き込んだスマートシティプロジェクトによる資金調達可能性については、Siemensが世界13カ国を対象にしたレポートを発表しています。イギリスではトップ40%の都市では、約62億ユーロ、人口50万人規模の都市で1億3600万ユーロと、資金調達可能性を試算しています。本レポートでは、民間企業を巻き込んだファイナンスプランでは、”小規模な投資”で始められるプロジェクトからスタートする手法(SmartStart Investment)が、成功するために必要であると強調しています。
米国でもこのような民間企業と組んだスマートシティプロジェクトが増えてきており、ファイナンスプランで成功している自治体もでてきています。代表的な事例は、ニューヨーク市のプロジェクトがあります。ここでは、インフラ投資に税金を1ドルも使っていません。 LinkNYCと呼ばれるデジタルキオスク端末を、ニューヨーク市内に設置するものです(図1参照 。左の写真ではバイクシェアのCiti Bike(シティバンクやスタートアップMotivateとニューヨーク市の協業)も写っている)。55インチの液晶画面では 広告が表示されます。また市民や旅行者が画面のメニューで、目的地への経路、駐車場の空き具合などを検索することができます。また市の各種サービスを知ることができます。さらに無料のWi-Fiスポット、無料通話電話にもなっており、スマホの充電を行なうこともできます。設置は、元々公衆電話ボックスが設置されていた場所を再利用しています。不審者監視のための360度カメラが設置されていますが、プライバシーを配慮して公衆安全以外での利用を禁じています。
ビジネスモデルはフランチャイズ契約です。インフラに税金を使わないのは、本端末を設置・運用する企業(Intersection社(Googleの兄弟会社))が、コストを持つためです。 市はIntersectionとフランチャイズ契約を行います。 Intersection社は広告収入がビジネスモデルです。市には、場所の利用代としてこの一部を支払います。つまり、市は税金を使わないだけでなく、今後10年間に亘って 約5億ドルの広告収入が期待されています(開始以来、既に3700万ドルの広告収入があったということです。)プロジェクト遂行はCityBridgeという技術、広告、通信、UIの専門家が集まったコンソーシアム が行なっています。現在市内に約1000端末が設置されており、2023年までに7500台設置を目指しています。
市民の利用も増えており、サービス開始1年で130万のキオスク端末利用者がいて、ブロードバンド通信料金に換算すると1500万ドル分の通信利用が行われているということです。ブロードバンドインターネット利用、無料電話は、市民や旅行者にとっての大きなメリットとなっています。市民は電話やインターネット利用にかかる費用を節約することも可能です(ニューヨーク市の25%超の世帯はインターネット接続がなく、人口の半分以上はPCを持っていません。)
Figure 1 LinkNYCキオスク端末 (Wikimedia Commonsより引用)
キオスク端末は光ファイバーで接続されているため、市内に光ファイバーの敷設が進んでおり、市内の企業にとっても大きなメリットとなっています。光ファイバー敷設・運用はZenFiという市内のベンチャーが行っています。さらに今後は本キオスク端末に設置された各種センサーデータ(カメラ、人感、温度、湿度、空気汚染度など)、キオスク利用者データなどを分析することで、人や車の振る舞いを知り、交通安全、渋滞解消に役立てたいと市は、考えています。またこれらのデータをオープンにすることで、企業が新規ビジネス開拓に利用することも期待されています。
本プロジェクトでは、当初数10台のキオスク端末を置くことで、どのようなサービスができるかを実証する段階からスタートしました。現在は広告ビジネスだけですが、今後は各種データを収集するハブとして利用して、ゆくゆくは市の設備をコントロールする司令塔(例えば交通量、歩行者量に応じた信号の制御)としての役割も検討されています。このために市ではサイバーセキュリティ対策、プライバシー保護対策を次の段階で盛り込む予定です。
このような民間との連携によるスマートシティプロジェクトの重要性は、プロジェクトの透明性をいかに保持するかということです。成果を時間軸と共に数値化するKPI(Key Performance Indicator)を市民に提供していくかが肝要となってきます。 税金や市のリソースがどのように使われ、どのような成果があったかを市民に公開(オープンデータ)していくことが重要視されるようになってきています。このような透明性は監査という観点だけでなく、市民を行政に巻き込んでいくという市民参加型行政という観点でも大切です。
次回は昨年米国連邦運輸省が全国自治体向けに開催した「スマートシティチャレンジ」というコンテストで約11億円の賞金を獲得して、その後官民からの資金・技術援助合わせて約550億円相当を集めて始まったオハイオ州コロンバス市での、交通の高度化を目指したスマートシティの試みを紹介します。
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